第4回 さっくんこと、作村裕介さん一家の唐揚げ入り巨大おにぎり

まる、さんかく、しかく。みんなのおにぎり第4回 さっくんこと、作村裕介さん一家の唐揚げ入り巨大おにぎり

2026.03.14

今回は友人であり画家の、作村裕介の家に行かせてもらった。

この連載がはじまると決まったとき、なぜかさっくんのことを思い出した。純粋でまっすぐなさっくんは、おにぎりが大好きに違いないと勝手に決めつけていた。その決めつけは正解で、さっくんに連絡すると「大好きだよ!」と返事が来た。

僕はさっくんの絵が大好きだ。さっくんが制作する版画からは生活の匂いを感じるし、なんならおにぎりを頬張りながら彫っていそうな感じもある。「ここ何年も彫ってない」と言っていたさっくんだけれど、しばらくして「彫ってみたよ!」と最高のおにぎり版画を見せてくれた。

さっくんとは、妻の由香ちゃんを通じて知り合った。由香ちゃんは、僕が働いていたうどん屋で一緒にアルバイトをしていて、由香ちゃんもさっくんも当時はまだ学生だった。ある日、アルバイト中に「彼氏が食べに来た」と言うので、僕は店長的な立場でもあったので、働いてくれている由香ちゃんの彼氏であるさっくんに挨拶に行った。そのときがさっくんとの初対面で、何を話したかまったく覚えてないけれど、とにかく愛想がないという印象しか残らなかった。

さっくんが帰った後に、「彼氏も絵描いてるんです」と言うので、「彼はどんな絵描いてるん?」と聞くと、「なんか豪快で、とにかく大きい感じの絵です」と教えてくれた。「でっかいキャンバスに描いてるんや?」と言うと、「サイズというよりも、なんかとにかく豪快で大きな絵なんです」と言われてまったくどういう絵なのか想像できなかった。

しばらくして、由香ちゃんがグループ展をするというので、うどん屋のスタッフと一緒に観に行った。その展示にはさっくんも参加していて、たくさんの色を使って豪快に描かれたさっくんの絵が飾られていた。僕は絵に詳しくないのでどういう技法とか素材とかはまったくわからないけれど、さっくんの絵は、音痴だけど構わずに好きな歌を大声で歌っているような印象の絵で、そのまっすぐさに僕は感動した。帰りにさっくんにも挨拶して帰ったけれど、愛想がないという印象は変わらず、絵と本人の印象の違いに戸惑った。

ある日の夕方、携帯に由香ちゃんから電話がかかって来て、出るとさっくんだった。「阪本さん! 俺みたよ阪本さんの写真と文章! めっちゃ好きだ!それ早く伝えたくてさ、由香に電話借りたんだわ!」当時僕の写真作品が雑誌に掲載されていて、由香ちゃんと一緒に本屋さんでそれを見てくれたらしい。愛想がない印象だったさっくんからの突然の電話。その電話で気持ちをストレートにぶつけてくれたこと、僕は戸惑いつつも嬉しかった。「今度飲もうよ!」と言ってさっくんは電話を切った。あの日見たさっくんの絵がなにかすこし理解できたような気がした。その台風のような電話をきっかけに僕とさっくんは仲良くなっていった。

ある夜、「阪本さんを描きたいから今から家行っていい?」と連絡があって、さっくんはバイクに乗って現れた。僕が以前住んでいた風呂なしのぼろアパートに上がり、筆と墨を畳の上に広げたかと思うと、僕の似顔絵を描きだした。僕の顔を見つめ、描く。描いては見つめ、描いては見つめ、何かに取り憑かれたかのように墨汁で僕の顔を描き上げた。墨が飛び散って畳の上についた。その墨はそのアパートを出るときまでとれずにずっとそこにあった。

さっくんの握るおにぎりは、まるでさっくんが描く絵のように豪快だった。唐揚げが入ったおにぎりが一番好きだからそれを作ると言い、おにぎりを握り出したさっくんが、話してくれた。

「そういえばさ、昔母さんが作ってくれたおにぎりがめっちゃくちゃ大きくてさ、めっちゃ美味しかったんだよ」さっくんが自分の顔の前で手で示すおにぎりの大きさはドッチボールくらいの大きさがあった。僕が笑うと、「ほんとなんだよ、ほんとにこれくらい大きかったんだよ!」と言い、思い立ったように、「そうだ、今日はそれ作るわ!」といって大きな大きなおにぎりを握り出した。

さっくんが握る、あまりにも大きなおにぎりに長男のおにぎり大好き麟太郎は釘付けになっていた。「ほんとにこれくらいだったんだよ、冗談じゃないんだよ!」と言ってさっくんが作ったおにぎりは、次男の朝陽の顔くらいの大きさがあった。

みんなでおにぎりを食べながら、「お母さんはなんでそんな大きなおにぎり作ったんやろう」と話していると、「なんでだったんだろうね。母さんに聞いてみよっか!」といっていきなり富山のお母さんに電話をかけた。

「母さん、今、おにぎりの撮影に来てくれててね」と話し、「なんであんなに大きかったの?」と聞いた。さっくんはサッカーを習っていて、毎週末お弁当を持たす必要があった。「毎回お弁当作るのは親の負担になるし、みんな一緒におにぎりにしよう」と父兄間での取り決めがあったらしい。「おにぎりの形してれば中には何入れてもいいってことだったから、食べ盛りの息子にたくさん食べさせてあげたいと思って、ウィンナーとか唐揚げ、焼肉なんかをたくさん詰め込んでいるうちに大きくなっていった」ということだった。

「ほんとあれおいしかったわー!」とさっくんが言うと、「当時は美味しいなんて一言も言ってくれなかったなぁ!」と電話の向こうでお母さんが喜んだ。

高校時代、さっくんにはおにぎりを持たせて、弟にはお弁当を作っていたことも教えてくれた。その理由は、さっくんは運動もしているしお腹が空いて早弁をするので、お弁当よりもパッと食べることができるおにぎりが都合よかったかららしい。

さっくんの血を継いだ麟太郎はおにぎりが大好き。麟太郎の誕生日に20個おにぎりを作って水族館に行ったが、家族四人ですべて平らげた。

当時一緒にうどん屋でアルバイトしていた由香ちゃんは今、黒猫まな子という名前でイラストレーターとして活躍しているし、さっくんは夢であった左官屋の大将になっている。あの二人が結婚して家庭を築いていることに僕は感動し、同時に僕も頑張らなあかんなぁと思った。

電話がつながっているお母さんに、「今度お母さんの握るおにぎりも撮らせてください!」とお願いすると、「ダイエットしときます!」と元気に返事してくれた。

 

第5回「太田さん夫婦と焚き火と飯ごう炊さん」の公開は3月下旬ころを予定。

 

 


 

阪本勇さかもと・いさむ

1979年生まれ。大阪府箕面市出身。大阪府立箕面高等学校卒業。日本大学芸術学部写真学科中退。写真家・文筆家・映画監督。現在、雑誌・WEB・映画などの人物を中心とした分野で写真と映像を撮影。自身でも監督として映画も撮影しており、映画祭に多数入賞し、高い評価を得ている。主な写真の受賞歴として、第26回写真ひとつぼ展受賞、第1回塩竈写真フェスティバル フォトグラフィカ賞。主な映画の受賞歴として、第1回おいしい映画祭でグランプリ・観客賞W受賞『JUMP ROPE BOY』、第26回TAMA NEW WAVE映画祭「ある視点部門」選出『宇宙のあいさつ』、第13回八王子shortfilm映画祭でグランプリ・観客賞W受賞じゃじゃじゃじゃーん!』。sakamotoisamu.com
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